クロージングトーク「ものづくりの鼓動は止まらない」——ROUND TABLE 2020 レポート④

2021.06.25 / REPORT

2021年3月13日から21日にかけて行われた、町工場とクリエイターによるコラボレーション・プロジェクト”ROUND TABLE 2020”の展示。「遊具―遊び心をくすぐる―」というテーマを3組のチームが各々に解釈し、ものづくりの新しい可能性を探求しました。展示期間最終日にはスペシャルゲストのお二人、明和電機の土佐信道さんと株式会社ロフトワークの林千晶さんを招き、ROUND TABLEの参加者と文字通りテーブルを囲んでクロージングトークを行いました。今回のレポートではそのクロージングトークの模様をハイライトでお伝えします。


画像をクリックすることで、Youtubeから当日の動画を視聴することができます。

全体でのトークに先がけ、ゲストのお二人に自己紹介プレゼンをして頂きました。土佐さんには「プロダクト未満の面白さ、試作や実験、遊び」について、林さんには「プロジェクトや場の組み立て方について実践してきたこと」について、様々なお話をお二人から伺いました。

コロナ禍をつくり続けて乗り越える:土佐信道さん

明和電機は中小企業スタイルで作品を「製品開発」し、「製品デモンストレーション」のパフォーマンスを国内外で行う芸術ユニットです。大田区の隣、品川区に位置する武蔵小山の商店街と町工場街の間という「まさにビジネスと工業の間」にアトリエを構えています。

昨年は中小製造企業と同様、明和電機もコロナの影響を大きく受けたそうです。明和電機の大きな収益元は二つの「こうぎょう」であり、一つはパフォーマンスの「興行」で前年までは世界中で大きな活動の柱となっていたものの、コロナ禍によってもう一つの収入源の「工業」の方で稼ぐしかなかったそうです。

工業の方では「オタマトーン」に代表されるように、モックアップや仕組みを制作し、おもちゃ会社との協働で量産するそうですが、量産には1年近くかかってしまいます。しかし、興行ができない状態で1年も待てば明和電機の倒産危機。「じゃあつくろう!と、去年1年間つくりまくった。」とのことで、この1年で開発をした製品事例をたくさん紹介して頂きました。

紹介して頂いた製品の中でも一際耳目を集めたのは”SUSHI BEAT”という製品です。寿司を握るようにスイッチを押すと、録音された音が鳴る楽器で、TAMAGO・EBI・MAGURO・IKA、4つの寿司を同時に押すと”SUSHI GO!”という曲を演奏することができます。

「(音楽は)配信などで、レコードなどモノの面白さが無いなと思った。」「ハードをつくればいいと考えついた」そうで、通常は量産金型をつくるところ、「アトリエにあるレーザーカッターと3Dプリンターだけでつくれるものを」と、平面部品をレーザーカッター、コーナー部品を3Dプリンターで量産しました(基盤は中国へ外注)。紙パッケージから高価なビンテージアクリルによる限定版までグレードラインナップがあり、SUSHI BEATは「よく売れました」とのこと。会場は軽快なビートに大盛り上がりでした。

ものづくりのために切り拓いてきた場づくり:林千晶さん

クリエイティブ企業のロフトワークの数ある取り組みの中から、「FabCafe」と「飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」の2つのものづくり事業についてお話がありました。

FabCafeは「(単なる)カフェではなく、ものづくりをする人たちのコミュニティ」で、仕事の場としてカフェを利用する人々の横でレーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションが動く場所です。レーザーカッターは2009年から毎日欠かさず稼働しているそうです。FabCafeの設立意図として「ものづくりがもっと私たちの生活に戻ってきたらいい」という想いがあり、人々がデジタルファブリケーションを活用することで「全てゼロからつくるわけではないが、ある一定のところは自分のものをつくるようになるはず。そこで消費者から生活者に変わっていく」と、林さんが考える「ものづくりの民主化」像が垣間見えました。

「ヒダクマ」は、地域滞在と木工にまつわるものづくり支援を行う産業セクターです。飛騨の広葉樹という多様な地域資源や職人をどう活用していくかという課題に取り組んでいます。産業セクターの本来の意義である「公共が担ってきた広い課題を民間が担う」という公共性の高い取り組みを、助成金に頼らずに事業として成り立たせているとのことです。

「KOCAに近いと思っている」というヒダクマですが、日本のみならず世界中の木に向き合いたい建築家がターゲットであり、最初から英語に対応しています。それは「20世紀は各国各都市が差別化の時代だった。現在の若い世代は地球としての課題をどう解決できるかが鍵」だということで、「大田区も世界に打ち出していけばよいのでは」とのアドバイスがありました。


トークイベントがはじまる前に、ゲストの二人に作品を解説している様子

「つくることと稼ぐこと」

ゲストお二方の自己紹介プレゼンの後、ROUND TABLEの感想を伺ったところ、お二人とも「クリエイティブと稼ぐをどう両立するか」という点を指摘されました。ROUND TABLEはプロダクト(売れるもの)をつくることを制作の目的としていませんでしたが、「どのようにコストを下げていくかを考えなければならないと思った」と販売も視野に入れていた「積みg」のようなチームもありました。

稼ぐという目的については、工場視点で林さんから「梅森プラットフォームやKOCAの仕事」として、コラボレーションによって町工場の仕事の幅を広げることや、大田区の町工場と新しいものをつくりたいクリエイターを繋げる相談窓口として新しい仕事を受けていく必要があるとのお話がありました。また、そのためには梅森プラットフォームとKOCAがプラットフォームとして稼ぐ必要もあると意見が一致しました。

大田区は「Ota-ku=オタク」

土佐さんはまさに明和電機の稼ぎ頭として累計100万本以上売れているオタマトーンがマーケティング無しで売れた理由として「メタ視点で『面白いね』と言ってくれる人」の存在を挙げました。現場で面白ければ突き抜けて、世界に趣味で繋がるようになっているとのことで、「みんなオタクなんですよ。大田区はOta-kuなんですよ!」と、大田区(オタク)によるものづくりの世界進出の可能性が示唆されました。

これからの時代は「静脈」の設計も必要

アーティストの灰原さんは、今回のコラボレーションで通った京浜島でリサイクル業者の存在を知ったことなどから「美大はつくることはやるが、処理の仕方は知らないことが多い」というサスティナビリティの視点でも今後取組の可能性があると話したところ、林さんは今までの世の中は「つくること=動脈」に偏っていたけれど「かえってくること=静脈」のデザインがこれからは大事だとの指摘がありました。作家だからこそ生み出せる新たな循環の仕組みがあるのかもしれません。


トークイベント後の集合写真

ROUND TABLE 2020の次へ

トークのまとめとして、ROUND TABLEの今後の展開についてもお話がありました。土佐さんからは、「アーティストはビジュアル化のプロ。例えばミニチュアをつくる、歌をつくるとか何でもいいが、面白いと思ったことをあらゆることで表現して『なるほど』と思わせるしかない。だから作品をつくってください。工場もものをつくることに関しては熱意がある。ものをつくるところに迫力があるのではないか。」と、御自身が実践してきたつくり続けることを力強く伝えて頂きました。

林さんは「工場は従業員を守っていかなければならない」と経営者の視点から、「世の中が変わっていく中で、自分の会社にとっても変化になるのではないかというところを見つけて欲しい」と、今現在を見つめ直すためにROUND TABLEのような機会を工場は活かすべきだと言います。また「工場がどうやって未来に続いていくのか」という中で、ROUND TABLEがまた次回以降更に新たなことを見つければ、経産省など行政も「未来をつくるなら予算をつけなきゃ」となるはずだと今後の期待を示して頂きました。

クロージングトークは終始笑いの絶えず熱量のある議論が最後まで続きました。当然ROUND TABLEという取り組みが次回も行われ、皆関わり続けていくという前提で参加者が議論していく様子は、今回のプロジェクトに関わった全ての人々がこのROUND TABLEの可能性や価値を信じていることに他ならないと思いました。ここに集まった皆さんはこれからもきっとROUND TABLEの心臓となって私たちをワクワクさせ続けてくれることでしょう。

本レポートで触れた内容以外にも、ゲストお二人の取り組み事例や、今回の工場とクリエイターのマッチングの経緯、当事者が語る制作過程の秘話など、様々な話題がありました。是非クロージングトーク本編のアーカイブ動画もご覧頂き、この対話の熱量を感じ取ってもらえればと思います。

クロージングトークURL
https://www.youtube.com/watch?v=ZbalnI0hEAY&list=PLvvxpT0r1HG_6leLYha3jcLUBfSsSadzq

文:Counterpoint/瀧原慧