回帰する「技術と芸術」 ——ROUND TABLE 2020 レポート①

2021.01.22 / REPORT

10月21日、大田区の町工場3社と3組のクリエイター/アーティストがKOCAに集まり、ROUND TABLE 2020のキックオフイベントが行われました。

このイベントは京浜急行電鉄が主催し、KOCAを運営する株式会社@カマタがディレクションしています。大田区を拠点とする町工場と新進気鋭のクリエイターがチームを組み、梅森プラットフォームという新しい場を舞台に、10月から2月までの5ヶ月間をかけて新しいものづくりに挑戦します。

キックオフ当日の集合写真

実は2年前にもROUND TABLEは開催されました。2年前は、梅森プラットフォームの開発に合わせ、次の時代のものづくりや地域のあり方について議論するオープンなトークイベントとして企画・開催されました。2018年7月から2019年3月にかけて、大田区の様々な場所で5回開催されました。筆者もROUND TABLEを契機に梅森プラットフォームやKOCAとの縁が生まれた一人です。過去のROUND TABLEの内容については ウェブサイトを御参照下さい。(https://www.rt-kamata.com/report)

今回のROUND TABLEが以前のトークイベント形式と大きく異なるのは、町工場とクリエイターが実際にコラボレーションすることによって何らかのアウトプットを生み出すことがゴールであるという点です。

対話を大切に、3組の「町工場×クリエイター」

工場側のプレイヤー3社の選定は@カマタが行い、アーティスト3者の選定は六本木アートナイト2019など数々のアートプロジェクトのマネジメント実績のあるNPO法人inVisibleが行いました。

ROUND TABLEのコラボレーションにおいて、最も大切になるであろう能力のひとつは「対話=コミュニケーション」であると考えました。対話をすることで相手への理解が生まれ、お互いの目指す方向を一致させることができます。参加者を検討する際には、工場側もアーティスト側も対話そのものを楽しみながら、協働のプロセスそのものを創造的にできそうな人かどうかを考えながら選びました。

また、今回のコラボレーションが一度切りで終わらず、この先も梅森プラットフォームを拠点に関係が育っていくような可能性を持っているかどうかも議論しました。ROUND TABLEを通して、参加者同士が新たな「ものづくりコミュニティ」の核として活躍し続けるきっかけになればこれ以上のことはありません。

コラボレーションのテーマは「遊具」

10月のキックオフイベントでは企画に携わる全員の自己紹介が行われ、今回の企画のテーマとして「遊具-遊び心をくすぐる-」という、様々に解釈が可能なワードが共有されました。

「遊具」と言うと、子供が遊ぶためのおもちゃや、公園に置いてあるジャングルジムなどが連想されると思います。しかし、現代の子供を取り巻く環境は私たち大人が公園で遊びまわっていた頃と大きく変わってきているように、「遊び」の内容そのものも変化しています。また、「遊び」は何も子供だけのものではありません。

そこで今回のROUND TABLEでは、個人的な体験から社会問題まで、あらゆる視点から「遊具」や「遊び」そのものを問い直し、既存の概念にとらわれない創作をすることで、新たに「遊び心をくすぐるもの」を生み出すことを目指しています。

2人の遊び心が出会う時

最後に、各チームのキックオフを経てからの活動や雰囲気についても紹介します。

【金子未弥 × ハタノ製作所:波田野哲二】
波田野さんは溶接工であり、金子さんも金属素材を扱った作品を制作してきたこともあり、素材を通してお互いに共通言語を持っているところから協働がはじまりました。

当初波田野さんは、職人としての性(さが)からか、目に見える成果物をすぐ出そうと最初は焦っている様子でしたが、金子さんとの対話を通して「コンセプトを模索している段階で急いでも良いことはない」という共通認識を得て、独立してから拠点を構える大田区京浜島についての理解を深めるところからはじめ、金子さんが過去の作品で用いた部材を使って習作を重ねながら、コンセプトを深めている様子です。互いに多忙な合間を縫ってSlackやZOOMで頻繁にやり取りを重ねているところも印象的です。


工場見学と溶接体験の様子

【灰原千晶 × ムソー工業:尾針徹治】
灰原さんは、素朴な疑問を尾針さんに問い続けることで対話を深めています。ムソー工業では大学や企業の研究機関で取り扱う試験片の製作を得意としており、数多の町工場の中でも有数の「金属素材のプロ」です。社長である尾針さんはその気さくで親しみやすい人柄と、金属素材にとどまらない幅広い知識で、好奇心旺盛な灰原さんの質問に答えます。

「ガンダムをつくるとしたら主な素材は何か?」という質問に対し「宇宙空間だけならアルマイトだが、チタンがほとんどでは?」という、”遊び心のある”対話も起きました。尾針さんも灰原さんが出展していた「さいたま国際芸術祭2020」に足を運ぶなど、お互いを知ろうとする意欲がとても強いと言えます。

灰原さんも他のアーティストの過去作や、アート以外の様々な領域についても博学であり、この「知の宝庫」なチームからどのようなアウトプットが生まれるのかとても楽しみです。

会食にてメモを片手に談議に花を咲かせる様子

【Cekai:小松健太郎 × エヌアンドエヌ:米竹真央】
Cekaiは「いいものを、つくる」という思想で繋がるクリエイターの”創造的結社”であり、小松さんはディレクターとして数々の広告作品や芸術作品を手掛けてきました。

協働相手のエヌアンドエヌは、梅森プラットフォームに工場を構える「ものづくり業界の便利屋」として、加工の請負のみならず設計・検査・組立~調整、製品化までを一貫して行うことができる「町工場のハブ」です。

この両者に共通するのは特定の技能に限らず、様々な技術(表現方法や加工法)の引き出しを持っていること。裏を返せば「俺たち色々できるけど、何つくる?」というコンセプト設計が重要となってきます。

そこでこのチームは、「遊具」というテーマと、米竹さんのバックグラウンドである「ゲームの専門学校に通っていた」という町工場の人材らしからぬ個人的な強みから、新たな「遊具」を生み出そうとしています。

綿密に議論を重ねたことでロジカルにコラボレーションの方向性を見出し、実際に公園の遊具をつくっているメーカーに話を聞きに行くなど、今回のテーマに対して一番真摯に向き合う興味深いチームです。コンセプトを固めた段階でCekaiから他のクリエイターが加わって制作が更に加速するとのことで、とてもワクワクさせられます。

遊具メーカーへ訪問した際の様子

職人もアーティストも根っこは同じ

余談ですが、ムソー工業の尾針さんがキックオフイベントの際、「町工場の職人とアーティストは何かつくっている同士といえども、お互い遠い存在に思われがちですが、そもそもArtの意味や語源を辿っていくと『人工』であるとか、『技術』という言葉が出てくる。そういう意味では町工場の職人もアーティストも元々は同じなのではないか。」ということを仰っていました。

確かに、英語のArtはラテン語のArsに対応し、Arsはギリシャ語のTechneに対応するため、「Art=技術」という意味が成り立ちます。現在では工場の職人とアーティストの職能は似て非なるものと考えられていますが、むしろ日本語で「Art=芸術」と訳されたことで我々の中には本質とは異なる固定観念が生まれてしまったのかもしれないと思わされました。そういった意味でも、今回のROUND TABLEによって「技術と芸術が組み合わさって何かが生まれる」ことに尚更期待を抱いてしまうのは私だけでしょうか。

ROUND TABLEは今後、制作物の展示やトークイベントを2月に行うことを企画しています。情報発信も継続して行われるため、是非ともこのものづくりプラットフォームで起こっている最高に面白いコラボレーションに注目し続けて頂ければ幸いです。

文:Counterpoint/瀧原慧